【エッセー】古き良き時代はあっただろうか?

昔を振り返る材料は各種様々だが、その中でも音楽というのは特別の思い入れがあったせいか、かつて毎日聴いていた曲とばったり対面してしまうと、思わず立ち止まり懐かしさに捕らわれてしまう。

それはボクにとってROXETTEであったり、ティーアーズ フォー フィアーズだったりセックス  ピストルズだったりする。中学生の頃は生意気に洋楽しか聴かず、クラスメイトと話題が合わなかったためか、誰にも言わず一人でこっそり聴いていたことが多かったように思う。

先日、中古CD屋にふらっと立ち寄った際、店内に流れていたINXSを聴き、懐かしさで胸が一杯になり思わず衝動買いしてしまった。他にデビーギブソン『Electric Youth』とカイリーミノーグの『Enjoy Yourself』を購入、どれも500円程度で売られていた。

1980年代

ワム!がデビューし、映画館では『ET』や『スターウォーズ』が興行収入を上げ、テレビの中では、松田聖子がアイドルで、ドリフの『8時だよ全員集合』やたけしの『俺たちひょうきん族』がお茶の間を賑やかした時代。1999年に世界が滅ぶと本気で信じていた純情な人々がたくさんいた。

時間が過ぎ去る速度というのは恐ろしく速い。この20年間で多くの人が生まれて死んだ中、天災や事件を乗り越え世紀も越えて、すっかり世間は様変わりしてしまった。ぼんやりしていると変化に気づかぬまま、すべてが失われていくような喪失感だけが残る。


古き良き時代という言葉がある。

ボクらが子供の頃、当時の大人たちも、今のボクらと同じように口にしていた言葉。

結局、人は十代二十代の頃の想い出に浸るのが、単に好きなだけだ、とも言えるし、実際その通りなのだと思う。

世の中の現実に直面し、己の限界やらを悟ってしまった、くたびれた大人たちのせめてもの心の拠り所で、やたらと若かりし頃の武勇伝を語りたがる。

時代に取り残された人々は、最近は良い映画が無いとか、聴きたい音楽が見つからないとか、今の漫画はどれもつまらないとかを言い、結論として昔はよかった・・・と締めくくる。自分の駆け抜けた青年時代だけが輝いていたと信じ込んでいるが、無論、輝いていたのは彼らの周囲なのではなく、今はくたびれてしまったが、彼ら大人たち自身の瞳の方だった。


そんな大人たちの一員に、そろそろボクも片足を突っ込もうとしている。

二十代前半から中盤にかけて、やりたいことだけを夢中でやり、振り向くことなく駆け抜けた頃。そして突如、結婚して子供ができた二十代後半も振り返ることはなかった。妙な懐古主義に憑かれたのはごく最近のことだ。80年代に流行った歌を聴きながら、昔の歌も悪くないと、しみじみ思えてきた。昔はよかった、というオヤジたちの常套文句を口にしはじめている。


学生時代に同人誌で書いたエッセイに、笑顔には質がある、という筋の話を書いたことがある。

今から十年以上前の20歳のとき、はじめての海外旅行で、友人とふたり中国を訪問した。ホテル代、特急券はあらかじめ日本で支払い済みの、計画的な2週間の旅。まったく中国語が話せず、現地の中国人とほとんどコミュニケーションを取ることができなかったが、大勢の中国人を観察していて気づいたことは、笑顔が明るいということだった。

笑顔にも色々な種類がある。

当時の日本はすでに、オウム事件が起こったように、日本中にくすんだ笑顔があふれていた。屈託の無い明るい笑顔を見せてくれるのは子供たちだけだった気がする。バブル経済が崩壊して、同じ笑うにしても引きつったような不器用な笑顔の大人ばかりで、通学時に見かける満員電車の中のサラリーマンのようには、死んでもなりたくないと思っていた。

30年前の日本を彷彿とさせる上海の町並み、そこで暮らす笑顔の明るい人々、これが自分の親父たちが言っていた古き良き時代なのだと、そのとき思った。

思えば,ドリフの『8時だよ全員集合』の番組を楽しみに見ていた頃の日本人の笑顔はまだ明るかったのではないか?

それはドリフターズの笑いが、誰かを笑わそうとする笑いで、笑われようとする笑いでも、誰かを馬鹿にして笑いを取ろうとする笑いでもなかったからではないか。

いかりや長介が亡くなったとき、惜しまれてやまなかったのは、笑われた芸人ではなかったからだろう。

同じことはお笑いに限らず無数あるのではないかと思う。それがここ20年間の間に我々が知らず知らず失ってきたものではないかと。


先日の証人喚問で代表質問をした民主党の議員たちは、誰かを馬鹿にして笑いをとろうとする芸人と似ている。

耐震偽造の当事者たちの肩を持つつもりはない。しかし物事にはやり方というものがある。国会がガキ同士の喧嘩となんら変わらなく見えるのは、人を笑う者は人に笑われる作用に、よるものかもしれない。

イラク人質事件の自己責任論にしてもそうだ。お前ら本気でそんなことを言ってるのか?と驚いてしまう。

物事を相対的に捉えることが進んだ現代。くすんだ笑顔の日本人はどこへ行ってしまうのだろうか。

そんなことなどをいちいち考えていると、古き良き時代は確かにあったのだなあ、と思えて懐かしくなる。
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by ronndo9117 | 2006-01-19 00:58 | 【エッセー】
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